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近年、人材定着の難しさや採用難を補う方法として、スポットワークの活用が進んでいます。厚生労働省によるスポットワークの定義は、「短時間・単発の就労を内容とする雇用契約のもとで働くこと」となっています。雇用仲介事業者が独自にまとめたレポートによると、2026年2月期のスポットワーク求人倍率は3.26倍となっており、前年の同月と比較すると1.82ポイント伸びているという状況です。
歯科医院は高度に専門的知識を必要とする職種ですが、分担する業務内容を工夫することにより、既存スタッフとスポットワーカーとの共存は可能と考えます。患者さんが多い時間帯や、スタッフの急な欠勤や長期休業時もしくは、次のスタッフを採用するまでの「つなぎ」として活用できることは、無駄な人件費を抑えることができるだけでなく、人員の最適化にもつながることが期待できます。さらに踏み込んだ活用方法としては、歯科医院での勤務を希望する人材に対して、見学や正社員採用を前提としてお試し勤務をすることも可能ですから、うまくマッチングすれば、正社員雇用へと繋げることが期待できます。短時間勤務ゆえにスキルのバラつきが生じる可能性がありますが、任せる業務を限定することにより、作業の安定化を図ることで解消します。比較的業務が定型化できる滅菌・洗浄スタッフや、院内清掃(チェアーユニット等含む)、診療器具の準備などに限定した内容での役割を検討できるのではないでしょうか。
一方、リスク回避のために対策を検討しておかなければならない点として、複数の業務を兼務することによる院内情報の漏洩やノウハウの流出、および疲労による集中力欠如から生じる医療事故の危険性です。情報漏洩に関しては、スポットワークに限らず雇用するすべてのスタッフが対象になりますので、医院で共通の秘密保持契約を作成し、採用の際に取り交わすとよいでしょう。また、カルテやレセプトなど患者さんの個人情報に触れる業務を任せることは避け、同時に機器の操作やアクセスができないように制限をかけて情報漏洩を防止します。疲労による事故に関しては、特に睡眠不足による集中力の欠如が疑われる場合は、業務を停止するなどの対応が必要です。医療器具の落下等による怪我を防止することのほか、受付業務部門では金銭授受や薬の出し間違いに注意が必要です。
スポットワークの活用においては、雇用契約上の問題等については事業者との十分な確認を進めた上で、既存スタッフとスポットワーカーの業務領域を区別し、限られた業務に徹することを第一に、業務内容の組み立てや役割の明確化を図ることにより、有意義に検討することができるのではないでしょうか。
つづく
玉ヰニュース 2026年 6月号より転載。
経済産業省では「キャッシュレス比率」という指標を発表しており、2026年3月31日付でリリースされた資料によりますと、2025年の民間最終消費支出に占めるキャッシュレス決済比率は58.0%(162.7兆円)とのことです。将来的には80%を政府目標としており、当面は2030年までに65%にするという中間目標に向けてキャッシュレス決済の推進に向けて取組んでいます。決済内容の内訳を見ると、クレジットカードが82.7%(134.6兆円)と大半を占めており、以下、コード決済10.2%(16.6兆円)、電子マネー3.7%(6.0兆円)、デビットカード3.4%(5.5兆円)と続きます。コード決済の統計がある2018年分においては決済比率が29.8%(73.7兆円)となっていることから、7年で2倍以上の取引が行われるようになっています。2018年分の決済内訳を見ると、クレジットカード90.5%(66.7兆円)に対してコード決済はほんの0.2%(0.2兆円)しかなかったことから、スマホでQRコードを読み取るだけで決済が完了する方法が急速に伸びてきていることがわかります。政府目標としては、2025年までにキャッシュレス決済比率を4割程度にするという目標を、短期間で大幅に上回ったことから、今後より一層の普及に力を入れるのではないでしょうか。
医療におけるキャッシュレス決済に関する統計資料としては、厚生労働省による「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果報告書」(最新令和7年3月)の中に、キャッシュレス決済の導入状況をまとめた資料があります。病院を除く診療所においては、医科・歯科を合わせて、個人診療所(55.3%)・医療法人(38.3%)を内訳とする統計資料ですが、キャッシュレス決済を導入しているという診療所は、クレジットカード35.8%、コード決済11.2%、電子マネー12.3%にとどまります。自費診療が多い歯科医院では、キャッシュレス決済の導入比率はもう少し高くなると予想されますが、それでも保険診療における患者さん負担分は現金のみ対応としているところが大半ではないでしょうか。つまり、「現金決済のままでも困ることがない」「加盟店の手数料が高い」ことから、喫緊に導入する必要性がないことが現状ではないかと思います。
今後の懸念としては、①スタッフの確保難により現金の授受を行う時間が取れない、②キャッシュレスが日常になることにより、うっかり現金を忘れて来院する、などが考えられます。給与単価の高騰を受けて十分にスタッフを確保できない状況が続く場合、自動精算機など無人対応できる方法を検討する可能性が生じますし、現金を持ち合わせない患者さんについては、未収金として改めて回収を行うリスクが生じます。一方、キャッシュレス決済を導入した場合には、決済手数料もさることながら、決済手段の種類が増加するため、それぞれに異なる入金サイクルの管理が生じる可能性があります。人手不足に対応するため、あるいは業務を効率化するためとして普及が進むキャッシュレス決済の仕組みですが、医院としてどう対応するのが最善策かを考えておく必要がありそうです。
玉ヰニュース
2026年 5月号より転載
歯科医院に限らず多くの業種において人材不足が深刻化していますが、同時に人材育成に頭を悩ませる企業・事業所も少なくありません。人材開発を手掛ける企業の調査によると、「責任が重くなる」「給与や待遇が仕事の負担と見合わない」といった理由から、出世や管理職を希望しいない人が増えているという実情があり、仕事の経験をもとに管理的な立場を担う形から、役職に捉われない新たな組織運営の方法を検討する時間にあるといえるでしょう。
歯科医院は少人数による事業所が多いため、階級的な組織作りがそぐわない点があります。院長の意向を理解し、スタッフ全体へ行き渡らせる立場のスタッフが存在すれば、院内での院長の労務管理負担は大きく軽減できますが、歯科衛生士業務や歯科助手業務などの業務遂行能力の高さと、俯瞰的な立場に立って後輩スタッフを統率する管理能力とがリンクしないことがあります。スタッフ本人も、スタッフの中心に位置して皆をまとめるよりも、現場での業務の楽しさを手放したくない、離れたくないというスタッフにとっては、リーダーやチーフ、あるいは主任などの役割は魅力的ではないものかもしれません。
歯科医院のように専門性の高い職場において、スタッフの持つ力を存分に発揮できる環境づくりを考える場合、それぞれの専門性を維持し、いかに広く継承していくかが人材育成の主眼となるでしょう。専門性の度合いにより習熟度を設け、先輩スタッフは若手スタッフに対して自らの技術を繋いでいくと同時に、自らはより専門性を高める意識づくりを行います。後輩へ技術を繋ぐ際に、とかく先輩スタッフは自分を越されてしまう、自分の居場所がなくなる、という意識が生まれ、時に育成が進まないことがありますが、後輩を育てることが自分自身を成長させ、医院にとって大切な新たな内容へ取り組む礎になることをフォローするようにしてください。
スタッフのモチベーションが上がり、仕事への意識がさらに高まるようになると、特に歯科衛生士業務などにおいては新しい技術や知識を取り入れたいという要望が上がってくることがあります。その際に院長は、スタッフからの新たな提案に対して具体的な指示を行うようにします。つまり、患者さんにとってどのようなメリットが生まれ、他のスタッフとどのように協力をして進めようとしているかを考えてもらうようにします。経営的な判断やマネジメントなど管理的な内容に関しては、外部専門スタッフなどの力を活用して実務的に行い、スタッフにはどのように医院に取り入れるか、医院の専門性をどう広げるかということに力を注いでもらうようにしてください。
つづく
※玉ヰニュース 2026年 4月号より転載。
日本の金利上昇傾向が続いています。2025年12月19日の金融政策決定会合で、日本銀行は政策金利を0.50%から0.75%に引き上げましたが、それに追随する市中銀行の短期プライムレート(短プラ)にも変化が生じています。日本銀行が発表する資料に基づくと、短プラにおいて都市銀行(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行)が自主的に決定した金利のうち、最も多くの数の銀行が採用した金利の最頻値は2026年2月9日に2.125%となっています。今後の金利情勢に関する金融機関や証券会社等の予測をみると、更なる金利上昇局面に続き、今後2年間で3回の利上げが行われるのではないかというエコノミストの予測もあります。
日銀の政策金利が上がり、それに伴って金融機関の融資金利が上がると、特に短プラに連動する住宅ローンの変動金利もその影響を無視できなくなっています。住宅ローンには、元金の返済を一定とする元金均等返済方式と、元金と利息の支払いを一定とする元利均等返済方式とがありますが、後者の元利均等返済方式には、「5年ルール」と「125%ルール」を設定する金融機関があります。5年ルールとは、金利が上昇しても5年間は毎月の返済額を変えてはならない、というものであり、125%ルールは、5年間据え置いた返済額を6年目から上げる場合は、これまでの返済額に対して125%までしか上げてはならない、というルールです。つまり、現在の返済額が月々10万円とすれば、当初5年間は10万円のまま推移し、6年目から上がる場合は12.5万円が返済額として最大の金額になるというものです。この2つのルールにより、家計の資金計画が立てやすく返済目処がわかりやすくなっています。
しかし、このルールにはリスクがあることを理解しておく必要があります。5年間は見た目上何も変わらないとしても、融資に対する金利を変動させることには何ら制限がないということです。極端な例ですが、金融機関が変動金利1%を明日から3%にするといってもよいのです。したがって、金利が上昇することの最大の影響は、毎月の返済額の中の、利息部分のみがどんどん膨らむ点に注意しておかなければなりません。金融機関から送られてくる返済予定表をみると、金利上昇に伴って返済元金は減り、利息ばかりが増えていることにお気づきになると思います。2009年1月に1.475%だった短プラ金利は2024年8月まで約15年間維持されたことから、これまではあまり金利上昇の影響を実感したことがありませんでしたが、2024年9月から2026年2月までのほんの1年半で2.125%へと0.65%も上がってくると、本来は減っていくはずの利息がみるみる上がります。
こうした金利上昇による影響を回避するためには、より金利の低い商品への借換えを検討することのほか、住宅ローンの一部でも繰上返済を計画し、元金そのものを少なくすることもその一つです。元利均等返済方式は毎月の返済額が同一のため、通帳の引落額だけでは元金と利息の比率が変化していてもわかりにくいものです。後になっていつまでも元金が減っていないという事態を逃れるためにも、いつでも繰上返済ができるように資金を準備しておくことが大切です。
(つづく)
※ 玉ヰニュース 2026年 3月号より転載。
歯科医院においても、産前産後休業や育児休業を取得するスタッフが増えてきている状況かと思いますが、現実的に復職する割合はまだすべてではなく、職場環境によっては休業の満了後に復職の条件がクリアできず、退職を余儀なくされている実態があるのではないでしょうか。厚生労働省において、令和5年1月から6月に行われた「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」における報告書の中で、「第1子出生年別にみた、第1子出産前後の妻の就業変化」(出典:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2021年))では、2015年~2019年の出産前有識者を100とした場合の出産後の継続就業率は69.5%となっているようです。
スタッフの採用が非常に難しい現状においては、結婚や出産を迎えても「辞めなくてもよい」仕組みをどう作るかが最大の人材確保術となります。事務職等とは違い、歯科医院での業務は在宅勤務やテレワークが難しい職場とはいえ、①復職できる制度があること、②そのための良好な人間関係、③復職後の業務担当などが事前に設計できていること、が復職を成功に導く柱と言えるでしょう。最近では、働き方改革により、週40時間の勤務に合わせて診療時間の短縮を行ったり、新たな休診日の設定を行ったりする歯科医院が増えていますが、診療終了時刻が早まることなどは、復職の体制を整える上では好ましい傾向です。
実際に復職を前提として院内業務の制度設計を考えますと、以下に挙げる内容を検討する必要があります。①AIなど、自動化設備を活用して業務効率化を推進する、②誰か特定のスタッフ一人に頼らなくてもよい業務分担の仕方を考える、③時短制度の導入、およびその方法を検討する。時短制度は、1日数時間からの短時間勤務や午前勤務を可能にしたり、出勤日数を少なくしたりすることで、フルタイム勤務以外の働き方を推進することです。くれぐれも注意しなければならないことは、フルタイム出勤をしないことがスタッフにとって不利にならないようにすることです。つまり、フルタイム出勤をしていないことで責められたり、差別的扱いになったりしないように配慮しなければなりません。
スタッフが産休や育休から復帰した後に、現実的にどのような問題があるかを考えると、①子どもの急病や急な体調変化、ケガなどによる保育施設等からの呼び出しや当日欠勤、②参観日や運動会、発表会、その他行事への参加による休暇申請、などがありますが、場合によっては有給休暇を活用するなどにより取得促進を図ることも可能です。いずれにしても、復職を容易にするためには、職場の雰囲気づくりが欠かせません。医院全体で、復職を前提とした職場環境の整備を進めるために、既存スタッフの意識づくりや、お互いが自然にフォローし合える職場文化を醸成することが大切です。一方、復職する側にも一定の責任と意識を持ってもらうことが必要で、勤務時間よりも出勤時の職務姿勢に評価の重点を置き、仕事にあいてはお互いが過度な気遣いは不要とする関係づくりを目指したいところです。
つづく
※ 玉ヰニュース 2026年 2月号より転載。
求人募集を出しても採用水準に至る人材の確保が不安定であり、また給与単価の高騰により人件費の上昇が避けがたい状況においては、現在在籍するスタッフの業務を徹底して効率化を図り、いわば少数精鋭の形を作り上げることがの喫緊の課題と言えるのではないでしょうか。少数で現在の業務に対応すると考えると、一人にかかる負担が大きくなるような印象ですが、業務効率を徹底するということは、無駄な業務を省くことであり、複雑に思えていた業務を単純化することであり、最終的にはシンプルな形を目指すことでもあります。業務内容が明確になると、患者さんへの対応も適切な状態になり、患者さんを多く診ることにつながるため収入増加に結びつきます。単純にコストを削減するだけでなく、収入増加にも寄与することが業務改善を行うことによる効果です。
業務の見直しのために第一に行うことは、現状の業務の洗い出しを行うことです。スタッフ全員、医院一丸となって取り組むことができると効果的です。誰がどのような業務を担当し、どのように行っているかを把握するために、ミーティングの場を活用し、カードなどにそれぞれが書き出すことによって、誰が何をどう行っているかを理解できるようにします。書き出した内容の中に、スタッフ同士で同じ業務を担い、しかもそれぞれのやり方で進めていたということがわかれば、ミーティングを行った効果がありということです。いわば非効率な部分が把握できることになりますから、業務が重複しないように改めてスタッフ同士で分担をし直し、無駄なく業務を繋いでいく意識へと高めていきます。また、業務遂行にあたっては、できる限り単純化し、誰が担当しても同じように行えるよう統一化を図ります。単純化もしくは省力化するためには、適切に設備投資を検討することが大変重要です。器具の滅菌・洗浄などは、人の手を使わず、自動化できるものは積極的に設備機器に置き換えることを進めると同時に、症例の収集や整理についても自動で行えるシステムを活用することや、患者さんのアポイントや会計業務などもシステム化することにより手間を省くことができます。業務を可能な限り単純化し、手書き、手入力、手作業を省略するために機器を活用することがポイントです。
業務効率を図ることは、少人数でも業務を遂行できることを目指すものですが、内容が洗練されてくると余裕時間が生まれることに繋がります。この時間こそ、次に目指す患者さんとのコミュニケーションの強化です。患者さんの容態について、より詳しく情報を得るために問診を強化する時間に充てたり、患者さんがより快適に、安心して過ごすことができる時間になるように目配り、心配りを行き届かせたりすることに使うことができます。スタッフが余裕を持った心持ちで患者さんに対応すれば、痛みや不安を抱きながら通院する患者さんにとってはこの上ない安心感を得られるのです。こうした取り組みはスタッフだけで実現できる内容ではなく、院長がしっかりと方向性を示し、リードし、尚且つ、楽しく取り組めることを大切にしてください。
(つづく)
※ 玉ヰニュース 2026年 1月号より転載。
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