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コラム『歯科医院経営を考える』

バックナンバー 2024

№559 組織的な医院運営を意識する

全国の歯科医院数を把握する調査に「医療施設調査」があります。厚生労働省が毎月行っているものですが、最新の令和64月の調査結果を見ると、歯科医院総数は66,768施設、そのうち個人診療所49,222施設、医療法人16,895施設となっています。歯科医院総数は平成28年度調査による68,940施設をピークに減少に転じていますが、個人・医療法人の内訳をみると、現在は個人診療所が減少し医療法人が増加を続けている状況です。全歯科医院数における医療法人数の比率は25.3%と高まってきていますが、10年前の平成26年調査時点では、個人診療所55,558施設、医療法人12,393施設であり、医療法人の比率は18.1%であったことから、年々その比率は上昇傾向であるといえるでしょう。

医療法人数が増加する動きは、歯科医院一施設あたりの診療収入が大きくなってきている影響もあるでしょう。同じく厚生労働省が2年に1度調査を行っている「医療経済実態調査」(令和5年実施)の資料に基づきますと、個人診療所の平均医業収益は47,958千円から47,190千円へと少し減少しておりますが、医療法人については108,852千円から110,768千円へと1.8%の伸びを示しています。事業承継等により世代交代を果たし医院の若返りが進んでいることや、メンテナンスの仕組みと歯科衛生士の配置が整い定期的に来院する患者さんの確保と対応が進むことにより、医業収入が増加することにつながっているものと考えられます。メンテナンス等に対応するためには、比較的多数のチェアーユニットを設置し、多くのスタッフを擁する必要があることから、必然的に個人から医療法人に組織変更をする必要が生まれているのかもしれません。

 歯科医院の運営が医療法人となりますと、健康保険や厚生年金などの社会保険への加入や就業規則の整備、有給休暇の取得管理や昇給、賞与の評価などの労働環境が整っていることが問われます。勤務するスタッフから求められるだけでなく、歯科医院に応募する求職者にとっても医院を選択する重要な要素となります。こうしたことは医療法人に限らず、個人診療所においても規模が大きくなるにつれて、給与体系や昇給・賞与の仕組み、あるいはシフトの組み方、休みの取り方に至るまで、スタッフの処遇に関する細かな取り組みが問われることになります。つまり家業・生業としての運営から離れ、一つの事業としてしっかりとした組織的な医院運営を取り組む必要が生じるということでしょう。

 今後、診療所規模が大きくなる傾向が続けば、院長をはじめとする歯科医師のほか、歯科衛生士、歯科技工士等の専門職種はより医業活動に専念し、労働管理・計数管理については事務系職種が担うという経営形態が進むかもしれません。院長自身もスタッフとともに組織のルールの中で過ごし、その中で日々の経営判断を行うなど、より組織運営の視点が必要な時代だといえるのではないでしょうか。

(つづく)
玉ヰニュース 2024年 8月号より転載。                                                                        

 

№558 最低賃金の上昇には労働効率の向上で備える

厚生労働省は、今年度の最低賃金を検討するにあたり第68回中央最低賃金審議会の開催案内を発表しました。毎年10月に行なわれる最低賃金の見直しですが、6月下旬から7月下旬にかけて大学教授などの公益代表、労働組合連合会などの労働者側、商工会議所・日本経済団体連合会(経団連)・一般企業などの使用者側との3者により構成される中央最低賃金審議会の審議により引き上げ額の目安を決定します。その決定に基づき、各都道府県による地方最低賃金審議会での審議を経て、各都道府県労働局長により決定され10月から発効される流れとなります。

昨年の最低賃金は全国加重平均額で1,004円となり、初めて1,000円を超える金額となりましたが、金額では前年比+43円、引上げ率は+4.5%もの高い水準になりました。政府は、最低賃金の目標を2030年代半ばには1,500円にするとしていますから、今年度は、大企業を中心とした4月の大幅な昇給等もあり、昨年に引き続き大きな見直しが予想されているところです。時給1,004円の水準は、月労働時間数を173時間とすると17万円台半ばの月給ですが、政府が目指す1,500円の水準というのは月給換算では26万円前後になるということです。毎年45%前後の昇給が難しい歯科医院においては、最低賃金の引上げが急速なペースで続くとすれば、いずれ追い付かれてしまうことになります。

そのために今後歯科医院が取り得る対策としては、早い段階から労働効率の向上を図ることに焦点を当てることが急務といえるのではないでしょうか。つまり、いずれ必要となる人件費の単価引き上げに備えて、スタッフ一人一人の業務内容の見直しを行い、効率を高めて対応するということです。日々の業務を遂行する上で大切なことは、ミスを防ぐためのチェックなど業務にモレがないように取り組むことですが、一方で、複数の職種で同じことを行ってしまう業務のダブリや、本来は行わなくてもよい無駄な業務を削減することはより大きなポイントです。複数のスタッフが同じ商品の在庫を確認・発注している、デジタルツールで管理・集計できるデータを手書きで集計している、担当を決めていないことにより業務が遅延しているといったことなどは、無駄な人件費が2重にも3重にもかかっていることになるのです。

スタッフからすると、業務の見直しにより今の作業がなくなるとなれば、自分の存在意義や役割を失うことのように思えて一時的に不安を抱くことがあるかもしれません。しかし、適正な人員で最大限の効率化を図るために、それは本当に必要な業務なのか、業務の整理によってより付加価値の高い業務が可能になるのではないかという広い視点を、院長だけでなくスタッフを含めた医院全体で持つことが重要と考えます。

 

 

(つづく)                                                                                       

玉ヰニュース 2024年 7月号より転載。

 

№557 年収の壁に拘らない働き方を

人材開発や組織開発のための調査・研究事業を行うある民間企業の調査結果を見ますと、最近の若者(=20代)が仕事を選ぶ上で重視することの内容が、価値観の多様化を反映してか非常に幅広いものへ変わってきていることがわかります。ほんの数年前までは、「希望する収入」「休みの多さ」「職場の人間関係」「仕事とプライベートとのバランス」といった項目の比率が高かったものが、現在はそれらの比率が少し下がり、「個性、能力が生かせる」「職場の将来性」「様々な仕事を経験できる」「働く場所の選択」など、自分の可能性を大切にしたいと思う項目が増えてきているようです。一方、転職をすることに対しても大きな抵抗はなく、その割合は高くなる傾向にあるようです。「継続して働きたい」と「他の職場へ転職したい」という意向がともに40%ずつを占めており、昨今の転職サイトの充実も相まって比較的容易に職場を変えようとする意識が高まっているといえるでしょう。

歯科医院の現場においてはスタッフ一人一人の影響が非常に大きく、若者の意識そのままに就労と転職を繰り返す状況がますます多くなることは院長の頭を悩ませるばかりだろうと思います。そうした中で、厚生労働省を中心に国が力を入れてきていることの一つが、年収の壁を超えてより多く働ける環境を整備しようとする動きです。年収の壁というのは、それを超えると自らの所得税がかかるようになる103万円の壁、配偶者の扶養から外れ自ら社会保険料を負担するようになる130万円の壁、所得控除の一つである配偶者(特別)控除が満額受けられなくなる150万円の壁などを指すものです。パートで働くスタッフの中には、これらの年収の壁を意識して、働く時間や金額の調整を行っている方も少なくないでしょう。各家庭の事情に配慮し就労調整を行っている歯科医院もあると思いますが、今、その壁を越えて、自分で税金を払い、社会保険料を払い、尚且つ実質の手取りを減らさなくて済むだけでなく、むしろ手取を増やせる仕組みが整備されつつあります。ご主人が勤務する会社によっては、家族手当など配偶者の働き方によって支給される手当や項目があるかもしれません。それを含めてなお手取りが増える給与基準を検討し、新たな国の制度も活用しながら、すべての壁を超えて働こうとするスタッフがいるとすれば、それは大きな戦力を得る最善の方法であると考えます。社会保険や有給休暇などの福利厚生に関すること、あるいは賞与や勤務時間など諸条件に関することを整備して、医院の方針をよく理解するスタッフが、より多く働ける環境を目指すことがこれからの大きなポイントではないかと思います。

厚生労働省が進める年収の壁パッケージなどの国の政策に関しては、顧問税理士や顧問社会保険労務士の協力を得て、スタッフ向けのわかりやすい説明と理解を深めるとよいでしょう。おそらく45月は多くの離職があったと予想されますが、今後も新たな人材の定着が進まない状況が続くとすれば、方針や考え方を熟知したパートスタップの力が最大限発揮される取り組みも大切です。

 

(つづく)                                                                                     

玉ヰニュース 2024年 6月号より転載。                            

№556 継続的な社会との関りを

閣官房に設置されている「新しい資本主義実現本部」での会議資料において、国立長寿医療センターが発表した資料を基にした【社会とのつながり方の種類数と認知症発症リスクとの関係】という資料によりますと、社会とのつながりがまったくないか、またはつながりが1種類の場合の発症リスクを100とした場合、5種類のつながりを持つ人の認知症発症リスクは54%に低減されるということです。

5種類のつながりとは、「配偶者がいる」「同居家族と支援のやりとりがある」「友人との交流がある」「地域のグループ活動に参加している」「何らかの就労をしている」というものであり、調査内容は、2003年に要介護認定非該当であった男女約14,000名を対象に、その後の認知症を伴う要介護発生状況を10年間追跡したデータを解析したものだそうです。それぞれ、2種類のつながりを持つ人の認知症発症リスクは86%3種類75%4種類65%、そして先述の5種類のつながりを持つ人が54%と、社会とのつながりの数の多さに伴って認知症発症リスクは低減するという調査結果が示されています。

 企業においては定年年齢が徐々に上がり、労働力確保に加えて若年者の社会保障費などの負担を少しでも和らげるために、70歳まで働き続けられる社会の実現に向けて政府はさまざまな制度改革等を行っているところです。また、実際の身近な生活者の実情を見ましても、60歳の定年を迎えたのちは、顧問や子会社への出向等で65歳前後まで働く人が多く見られるほか、現役時代に築いた友人関係を大切にしてゴルフなどスポーツ三昧の日々を送る大手企業元常務、退職者を集めそれぞれが持つ知識やノウハウを持ち寄って新たな事業を興そうと張り切る電器業界元専務、古民家を改装して広いリビングダイニングを作り、自ら作る手料理を友人に振舞う弁護士など、いつまでも社会とのつながりを大切にしようとする方は精力的に活動をする印象があります。元経営者や専門家でなくとも、定年後にベンチャー企業の門を叩き、培った人脈を生かしてもう一旗揚げようとする元管理職も毎日を充実して過ごしています。

 昨今、そろそろ事業承継や事業売却をしようかとおっしゃる歯科医院院長と話す機会が増えてまいりましたが、お話をするときに切に願うことは社会とのつながりを持ち続けれてほしいということです。そのために細々とでもよいので診療を継続することはできないか、地域のコミュニティーの場所として歯科医院を存続させることはできないかと持ち掛けることもあります。高齢になった患者さんが最後まで信頼して通い続けられる医院であってほしいと望むと同時に、仕事(診療に)に没頭してきた長い年月が途切れた時に、虚無感に苛まれることがないようにと願うばかりです。

 

(つづく)                                                              

玉ヰニュース 2024年 5月号より転載。

№555 人材の流動と労働力確保

外務省が発表する海外在留邦人数調査統計によると、海外に居住の地を移し永住する人が増えているようです。海外に存在する邦人数は、コロナ前2019年の1,410千人をピークに、2023年度には1,293千人まで減少しているためコロナ前の水準に戻らない状況ですが、そのうちの永住者数はコロナ禍前からも年々増加し続けており、2023年には574千人を記録しています。海外在留邦人に占める永住者の割合は、2013年の33.2%から2023年は44.4%10年間で10ポイント以上も増加している状況です。年齢や性別の構成は発表されてはおりませんが、ここでの永住者とは、3か月以上海外に在住し当該在留国から永住権を認められ生活の拠点を日本から海外へ移した人のことを指します。

一方、法務省出入国管理庁が発表する2023年末の在留外国人は3,419千人で、過去最高を更新しているそうです。そのうちの永住者の数は年々増加の一途を辿っており約891千人となっています。前年から比較すると約3.2%、人数にして約27,600人の増加です。技能実習生や留学生なども含めた在留外国人数は、コロナの影響を受けた2020年から2021年にかけて一旦減少したものの、その後増加に転じ現在の状況となっています。日本人の海外流出と外国人の日本流入が少しずつ進んでいるという状況です。

政府は2024315日に、これまでの技能実習に代わる制度として「育成就労」の法案を国会に提出しました。これまでの技能実習は、日本の技術を発展途上国の外国人に教えることによって、その国や地域の経済発展に寄与することを目的としてつくられた制度ですが、育成就労では日本に定住して働き手となる外国人人材の確保を目的として制定を目指すものです。制度の詳細は今後検討が進められることになりますが、国内での深刻な労働力不足に対応するための要件を整備し、より長期的に日本に在留し労働できることを目指す制度となるようです。技能実習生としてなかなか増えない外国人労働者を、育成就労者として労働力を増やしていこうとする政府の強い意向の表れでしょう。

歯科医院では、歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士は国家資格のため対象とはならず、また歯科助手、受付等の業種においても一般業種となることから、現段階では育成就労の対象職種とはならない状況ですが、諸外国との人材の交流がますます盛んになることが予想される中で、患者さんとしての外国人対応のみならず、スタッフとしての外国人対応等も視野に入れる時代がくるのかもしれません。

(つづく)

玉ヰニュース 2024年 4月号より転載。

№554 積極性と生産性

215日に内閣府から発表された202310月~12月期の国内総生産(GDP)の速報では、名目GDPはおよそ591.5兆円(内閣府HP)となり、ドイツに抜かれ世界第4位に下がったとの報道がありました。国内総生産は、一年間など一定期間内に生み出された価値の総額を表しますが、日本の人口約12,409万人(総務省統計局)に対して、ドイツの人口が約8,482万人(外務省HP)と日本の約7割の人口のため、一人あたりのGDPで考えると1.5倍ほど開きがあることになります。実際、日本の一人あたりGDPは世界では30位前後、G7の中でも最下位となるなど、依然として生産性が高くならない状況が続いているようです。

ある専門家は、日本は長年コスト削減ばかりを行い、投資などの積極的な経営をしてこなかったからだとの分析を行っています。弊社が毎年行う収支アンケート調査において経営効率を見た場合でも、収入規模が大きい歯科医院、つまり設備投資の資金を多く確保できる歯科医院ほど生産性が高くなる傾向があります。たとえば、スタッフ一人あたりの月間収入額においては、平均は約131万円となっておりますが、小規模歯科医院においては約106万円に対して大規模歯科医院では約144万円まで、収入規模に比例して高くなる傾向があります。チェアー一台あたりの月額収入においても収入規模に比例しており、小規模歯科医院の平均約54万円から、大規模歯科医院の約220万円まで実に4倍の開きが出る傾向があります。

現在、コロナ禍に行なわれた無利息融資の返済が始まってきておりますが、銀行担当者によると、利払いが始まる直前に借入れた資金をそのまま一括で返済をする事業所は多いそうです。銀行としては十分に想定された動きのようですが、一方で銀行も融資残高を維持するためにプロパーでの融資に力を入れている様子です。つまり歯科医院にとっては、より有利に融資を受けられる状況でもありますから、新たなチェアーの増設や更新、あるいはCTやマイクロスコープなど、高額になる新規の設備導入について積極的に検討できる環境と捉えることができます。

歯科医院の損益について数年間に亘る推移を見ていますと、設備投資等によって経費の金額が多少増えたとしても、積極的な経営を推し進めることにより経費の増加分を上回る収入を得られるようになり、収入に対する利益(所得)率が上がる歯科医院が多くみられます。物価が上がることで各経費項目にも影響があるため、全体の経費管理が非常に難しい経営環境ではありますが、積極的な取り組みが歯科医院の経営を安定させ、医院の経営安全率を高めることにもつながります。

(つづく)

玉ヰニュース 2024年 3月号より転載。

№553 選ばれる職場づくり

少子高齢化が一層進む昨今の状況において、歯科医院を維持するための貴重な戦力となるスタッフを確保する場合、求職者から「選ばれる職場」を目指すことが大切になります。そのためにまずは職場の魅力を整理し、求職者へ的確に届けることが重要になりますが、医院のどの魅力を強調して表現するかによって呼応する人材も変わります。

たとえば、歯科医療そのものの魅力を強調すれば、ほかの業種で働く人材からは歯科医療が魅力的に映ります。歯科医院で働いた経験がない人も、歯科医療を通じて人々の健康に寄与したい、健康に悩む人の力になりたいと考え歯科医院に人材が集まる可能性が高くなります。一方、具体的に医院の体制について表現した場合、たとえば週休3日制を採用している歯科医院であれば現実的に休日数が増えるわけですから、休みを多く欲しいと思う人材が集まります。1日の労働時間は長いけれども休日が多い方が嬉しいという人を選別できることになります。

近年は、働く環境の整備が進んでいることから、社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など)への意識も高くなっていますが、歯科医院においては社会保険を完備する歯科医院が特集として組まれ、安心して働くことができる魅力ある歯科医院として選別される現状があります。また、歯科衛生士などの有資格者は比較的学習意欲が高いこともあり、人材育成や教育に力を入れているという内容が職場の魅力として求職者に映る要素にもなっています。

人それぞれに異なる多くの魅力があるように、歯科医院もそれぞれに魅力的な要素を多く有しています。人を惹きつける医院のよさを求職者に的確に伝えるために、歯科医院の何が求職者にとってメリットとなるのかを整理することが必要です。ここで働きたいと思う人に対してわかりやすく具体的に提示できることが、医院が求める人材とより早く巡り合う可能性を高めることにつながるでしょう。

職場の魅力を働く立場に立って表現するためには、勤務するスタッフを集めて医院の魅力を思いつくままに出してもらってください。誰の意見も否定せず、中心となる数人のスタッフが34つと魅力を出し合っていくうちに、その場に参加するスタッフから次々に意見が出てくるようになるとミーティングは成功です。数多く集まった魅力の内容を、医院に関すること、仕事内容に関すること、診療に関すること、給与や待遇に関すること、人間関係に関することなどに分類し、その中で何をもっとも強調して打ち出せばよいかを話し合うとよいでしょう。人を選び、また人から選ばれることによって、医院の魅力に一層磨きがかかることを期待します

(つづく)

玉ヰニュース 2024年 2月号より転載。

№552 変化に対応する柔軟な備えを

ランスフォーメーション(X)、すなわち変化や変革、あるいは変形と訳される言葉ですが、身近な内容としてはデジタルトランスフォーメーション(DX)が挙げられるでしょう。新型コロナウイルスの感染が拡大した際に注目を浴びるようになり、その後産業界ではデジタル化により多くのビジネスモデルが提案され、今では一般的な取り組みとして普及することとなりました。

医療分野においても、政府による医療DXとして日々推進されているところですが、2023DX白書によると、医療福祉分野におけるDXの取組状況は9%にとどまっている現状です。その次は宿泊業、飲食サービス業の16%となっており、もっとも取組状況が高い分野は、金融業、保険業、情報通信業の45%のほか、農業、林業においても45.4%という状況のようですから、医療分野においては個人情報の共有におけるセキュリティの問題や人材不足の問題などが大きく影響しているのかもしれません。とはいえ今後の社会の構造変化に対応するべく、医療分野におけるDXも強力に推進されていく分野であるといえるでしょう。

近年注目を浴びているトランスフォーメーションという言葉ですが、DXにとどまらず、さまざまな分野に使われています。二酸化炭素の排出を減らし、環境に優しい変化を促すグリーン・トランスフォーメーション(GX)、SDGsに代表される企業や社会の持続性を実現する取り組みであるサスティナブル・トランスフォーメーション(SX)、人との関りやサービスを通じてよりよい関係を生み出そうとするヒューマン・トランスフォーメーション(HX)のほか、被爆量を極限まで減らす一方で撮影範囲を飛躍的に拡げる変革を目指すX線トランスフォーメーション(XX)という言葉まであるようです。

医療DXも研究を重ねる中で、今までとは全く違う概念や研究成果が現れ、一気に変化を伴う時代が来るのかもしれません。歯科医療は、患者さんの口腔内に触れることではじめて治療が進む特殊な分野のため、さまざまな変革を図ることからは遠い位置に存在すると考えられていますが、変化することによる暮らしやすさ、働きやすさを柔軟に受け入れる体制は維持しておきたいところです。日々変化を重ねることにより、患者さんだけでなく、ここで働こうとするスタッフも含めて心地よく過ごせる環境づくりに向けて、残すべきものと変わるものとの融合を目指すことが大切と考えます。

(つづく)

玉ヰニュース 2024年 1月号より転載。

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